小学5年生で学校に行けなくなって、自分が何で学校に行けなくなったのかもわからなくなるくらい部屋にいる時間は苦しかった。
何もない1日を望んだ僕が、何もない1日の長さに耐えられず、明日を迎えられる自信もなかった。
それでも死んでしまう勇気もなくて、ただ時間が立つことだけを願っていた。
雄介と僕それぞれ不登校になってから8畳の部屋の真ん中をタンスなどで区切ってそれぞれに過ごしていた。
一緒にいるときは悩みを聞いてくることはなく。
聞かれたくないから僕からも聞かなかった。
その関係が救いだった。
中学1年生のとき、僕らは相変わらず学校には行けなかったけど、一週間に1度の楽しみがあった。
それは深夜ラジオ。
ミンクという女性のパーソナリティが夜中の3時から朝の6時までやっていた番組だ。
内容はミンクの好きな芸能人の話、それから1週間の出来事など面白おかしく話してくれた。そして自分の歌や好きな音楽を僕らに聴かせてくれた。
それだけで何も知らない僕たちの世界を大きく広げてくれた。
それだけで何も知らない僕たちが、世界を旅することが出来た。
いつ聴き始めたのかは覚えていない。
気がついたら聴き入っていて、僕も雄介も顔も知らないその人の声に心惹かれた。
ただただ元気なその声を聞いているときは、自分の中の真っ黒い闇さえ忘れさせてくれた。
あれは恋?
わからないけれど、エンディングには毎回寂しくて泣きそうになった。
また来週もこの声が聴ける。
頭のなかはそのことでいっぱいだった。
今思えば、あの頃の僕らが一週間を生きる理由になっていたと思う。
中学1年生がそんな想いで聴いていたことなどあの人は知らないだろうな。
双子で真夜中にスピーカーにかじりついてラジオを聴いてるなんて今思えば、なんだか不気味で笑えるけれど。
今僕らが発信するものが、僕らの知らない誰かの今日を生きる力になっているかもしれない。
それを知ることは無いかもしれないけれど、そう信じるだけでまた頑張る力になる。
ひきこもりだった僕らの部屋の中にあった小さな幸せ。
ラジオは僕たちを救ってくれた。
史朗